タイでは1980年代後半から1990年代はじめにかけて、新しい美術運動が起きました。その運動は国際的美術の動向に呼応しており、それまで現代美術の動向と無縁だったタイでも、若いアーティストたちも冷戦後の新しい世界的美術運動に加わるようになりました。
タイは180年代後半からアジア経済圏の発展、日本企業の進出にともない急激な社会変化を迎え、それまでの農村共同体的社会から工業社会、都市型の生活へと変貌し、バンコクには高層ビルが建ち、道路には自動車があふれ都市生活の様相は急激な変化をみせました。タイの若いアーティストたちの新しい美術運動は、こうしたタイ社会の急激な変化、新しい現実に呼応したものでした。そこに冷戦の終結、グローバル化の時期に重なり国際的な美術シーンと結びついたのでし た。
チャチャイ・プイピアはそうした新しい動向を代表する画家です。
急速な変貌を遂げたタイ社会に生きる人間の心情を自分のポートレイトに託して描いています。チャチャイの作品に描かれるのは急激な変化に驚くタイ人、新 しい時代の意味を考えるタイ人など、またタイ社会の変貌を水や象に象徴させて描いた作品もあります。装飾的な絵画が多いタイ美術においてチャチャイの表 現主義的絵画は異色な存在です。
近年チャチャイの作品は表現に幻想性を増し、幻想性のなかに現代を生きる人間のこころの葛藤と平安への道を描き、より普遍的な人間存在について思いを広げています。